Study 2

先天性凝固異常症の分子病態解析

血が止まらない (出血性素因)

血栓ができやすい(血栓性素因)

 

このような「血液凝固異常症」の一部は遺伝子の変異を原因とした先天性疾患です

 

私達は先天性凝固異常症の「遺伝子解析」を行い、実臨床に貢献するとともに、同定した遺伝子変異の病態(なぜその変異が凝固異常症を引き起こすのか)を分子・細胞レベルで明らかにします


本研究は名古屋大学医学部附属病院輸血部との共同研究です
我々は名古屋大学凝固グループの基礎研究チームとして先天性凝固異常症の診療に貢献しています

Contents


Introduction

 先天性血液凝固異常症とは


・分子病態解析

先天性血液凝固異常症の遺伝子変異を同定し、分子生物学・遺伝子工学的な解析技術を用いて、遺伝子変異の病態を分子・細胞レベルで解析します


血友病の新規分子治療薬開発への挑戦

 ゲノム編集で作出した血友病モデルiPS細胞およびiPS細胞由来血管内皮細胞を用い、遺伝子変異に対応した新しい分子治療戦略の開発を目指します


Introduction 先天性凝固異常症とは


先天性凝固異常症は、凝固因子欠乏・異常症を原因とする「先天性出血性疾患」と、凝固因子異常症もしくは抗凝固因子欠乏・異常症を原因とする「先天性血栓性疾患」にわけられます

出血性素因

ヴィクトリア女王とその子供たち (英国王室の血友病)
ヴィクトリア女王とその子供たち (英国王室の血友病)
  • 先天性出血性疾患は、ほとんどの症例が欠乏因子の責任遺伝子変異による単一遺伝子疾患です。
  • 先天性出血性疾患の遺伝子診断の意義は、病型・病態の把握、インヒビター発生リスクの予測、保因者診断、さらには、現在開発が目覚ましい速度で進んでいる遺伝子治療への適応性などが挙げられます。

血栓性素因

  • 先天性血栓性疾患は遺伝性血栓性素因と定義される遺伝子変異に加えて、環境因子などが複雑に絡み合い発症に至る多因子疾患と定義されます。
  • 先天性血栓性疾患の遺伝子診断の意義の一つは血栓症発症リスクの予測です。妊娠などのライフイベントへの備えや勤務環境などの生活習慣の改善など、遺伝性素因を保持する患者さんに対して血栓症発症の予防を喚起します。
  • また、2017年に指定難病に登録された成人の「特発性血栓症」の診断は遺伝学的検査結果が必須であり、先天性血栓性疾患において病態責任遺伝子の変異同定は極めて重要な検査です。

分子病態解析


これまでの遺伝子変異解析疾患

  • 血液凝固第II因子(プロトロンビン)異常症
  • 血液凝固第I因子(フィブリノゲン)異常症
  • 血液凝固第V因子欠損症
  • 血液凝固第VII因子欠損症
  • 血液凝固第VIII因子欠損症(血友病A
  • 血液凝固第IX因子欠損症(血友病B
  • 血液凝固第X因子欠損症
  • 血液凝固第XI因子欠損症
  • von Willebrand
  • 血液凝固第VVIII因子合併欠損症
  • Antithrombin欠損症
  • Protein C欠損症
  • Protein S欠損症
  • Plasminogen Activator Inhibitor (PAI)-1欠損症
  • Antithrombin-resistance prothrombin (ATR-FII)

 

遺伝子解析で発見した変異は、培養細胞を用いた変異タンパク質の発現解析によって、タンパク質 kinetic (タンパク質の産生や分解の速さなど)、細胞内局在(小胞体やGolgi体といった細胞小器官への異常蓄積など)、細胞外分泌能、さらには変異タンパク質の機能(凝固因子としての活性不全など)を分子生物学・細胞生物学・血液凝固学的な観点から多角的に解析します。

血液凝固因子変異体の細胞内局在異常 (血液凝固因子変異体 (赤色)が Golgi体 (緑色)と共局在していない)
血液凝固因子変異体の細胞内局在異常 (血液凝固因子変異体 (赤色)が Golgi体 (緑色)と共局在していない)